「申請のない残業には払わない」は通るか——事前承認制の正しい運用
2025-10-23
5秒でわかる結論
残業の事前申請・承認制自体は適法だが、会社が残業を知りながら黙認すれば「黙示の指揮命令」で労働時間と認定される。申請制+上司の制止義務+打刻との乖離確認がセット。
残業の事前申請・上長承認制は、残業管理の手段として適法かつ推奨される制度です。しかし「申請のない残業は一切払わない」とは別問題です。ここを誤ると、申請制がかえって未払残業代の温床になります。
原則——承認制は有効な管理手段
残業は本来、会社の指示・承認で行うものです。事前申請制は指揮命令の有無を明確にし、労使双方に有益です。申請制を真に徹底している会社について、承認のない在社時間の労働時間性を否定した裁判例もあります。
しかし「黙示の指揮命令」は成立する
問題は運用です。次のような場合、申請がなくても労働時間と認定されます。
- 会社が残業を知りながら黙認——上司が毎日21時まで残る部下を見ながら制止しない。
- 所定時間内に終わらない業務量——残業しなければ納期に間に合わない。
- 申請しづらい職場の実態——「この程度で残業申請か」という雰囲気で事実上申請不能。
労働時間該当性は客観的に定まり(三菱重工長崎造船所事件・最一小判平成12年3月9日民集54巻3号801頁)、申請書の有無は決定打になりません。平成29年の厚労省ガイドラインも、使用者に労働時間の客観的把握を求めており、打刻と申請の乖離があれば会社に実態調査が求められます。
正しい運用
- 申請制+上司の制止義務をセットにする(申請なく残る社員には帰宅を命じる)。
- 打刻時刻と申請時間が乖離したら都度理由を確認し記録する。
- 終わらない業務量そのものを調整する——さもないと申請制は形骸化します。
- 「申請なし・不払い・仕事は黙認」の三点セットになったとき、会社はまず負けます。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2025-10-23)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。