「月給30万円(固定残業代含む)」の落とし穴——80時間分が全部無効とされた判決
固定残業代は基本給と明確に区別できなければ無効。80時間分の設定は公序良俗違反で全部無効——東京高裁判決の教訓と設計チェックリスト。
雇用契約書に「月給30万円(固定残業代含む)」——この書き方には落とし穴があります。
日本の固定残業代制度が有効となる条件は厳格です。基本給がいくらか、固定残業代がいくらか、何時間分の残業に相当するか、明確に区別できること(判別可能性)が必要です。区別できなければ、その全額が「基本給」として扱われ、残業代はより高い単価で計算し直しになります。また、固定分を超える残業には別途支払いが必要で、「残業代込み」=「残業はすべて無料」ではありません。
ある事件では、月給約26万円のうち約10万円が「80時間分」の固定残業代とされていました。東京高等裁判所(平成30年10月4日判決)は、月80時間は過労死リスクが認定され得る水準の残業であり、これを前提とする固定残業代は公序良俗に反し無効と判断。「せめて45時間分は有効」という会社の主張も退け、全部無効としました。その結果、10万円は通常の賃金の一部となって残業代の算定基礎が上がり、会社はより高い単価で残業代全額を支払うことになりました。
経営者への実務対応:設計チェックリスト
- 契約書・労働条件通知書に3点を明記:①基本給○円 ②固定残業代○円(○時間分)③超過分は別途支払い。「月給30万(残業代込み)」と一文にまとめるのは無効の典型例。
- 求人票・募集広告にも同じ3点を記載:募集ルール上の要請であり、不明確だと「当初の約定が不明」という証拠にもなる。
- 時間数は45時間以内を目安に:月45時間は時間外労働の法律上の原則的上限(労基法36条)。80時間などに設定すると本件のように制度全体が無効になり得る。
- 毎月実残業を照合し、超過分は差額を支払う:「超えたら払う」運用の実績が有効性の最有力の裏付け。一度も払っていないと、残業代の対価性自体を疑われる。
- 給与明細で固定残業代を独立表示:基本給と固定残業代が分かれた金額を毎月従業員が確認できるようにする。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-01-08)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。