元従業員から残業代請求の内容証明が届いたら——放置が最悪の選択である理由
2025-06-17
5秒でわかる結論
元従業員から残業代請求の内容証明が届いたら。時効3年・退職後は年14.6%の遅延損害金・最大同額の付加金——放置が最も危険です。正しい初動を解説。
ある日、会社に「内容証明郵便」が届く。差出人は数か月前に退職した従業員(またはその代理人弁護士)。内容は、過去3年分の未払い残業代の請求——。
このとき会社が最もやってはいけないのは、放置することです。
内容証明の法的な意味
支払いを求める内容証明は、民法上の「催告」(民法150条)にあたり、催告から6か月間は消滅時効が完成しません(時効の完成猶予)。つまり差出人は、時効を止めたうえで、6か月以内に労働審判や訴訟に進むことを想定しているのが通常です。ここまで動く相手は、多くの場合すでに弁護士に相談しています。
放置すると金額はどうなるか
- 時効は3年:2020年4月以降に発生した賃金債権の消滅時効は3年(労基法115条・附則143条3項)。過去3年分を一括で請求できます。
- 退職後の遅延損害金は年14.6%:退職後の未払い賃金には、賃金支払確保法6条により年14.6%の遅延損害金が付きます。
- 付加金:訴訟になると、裁判所は未払額と同額を上限とする「付加金」の支払いを命じることができます(労基法114条)。最悪の場合、支払総額は2倍近くになります。
やってはいけない3つのこと
- 無視しない:応答がなければ相手はそのまま労働審判・訴訟に進みます。
- 感情的に電話しない:「恩知らず」「払いたくない」——録音され、不利な証拠になり得ます。
- 出勤記録を廃棄・改変しない:致命的です。記録が消えると、裁判所は従業員側の主張に沿って労働時間を認定し得ますし、会社の信用も失われます。
他方で、直ちに全額を支払うのも適切ではありません。請求書の計算(期間・単価・固定残業代の扱い)には検証の余地があるのが通常です。
正しい初動
- 請求の期間・計算根拠を確認する
- 資料を集める:出勤記録・賃金台帳・雇用契約書・就業規則。
- 法的な争点を検証する:固定残業代の有効性、管理監督者該当性、休憩時間の扱い——争点の帰趨で金額は大きく変わります。
- 早期に弁護士に相談する:内容証明から6か月以内に法的手続に進む可能性が高く、初動の質がその後を決めます。
- 付加金の回避方法を知る:付加金の支払義務は未払いにより当然に発生するのではなく、裁判所の命令によって初めて発生します(細谷服装事件・最判昭和35年3月11日)。そして最高裁判例(最判平成26年3月6日)上、事実審の口頭弁論終結までに未払額の支払いを完了すれば、裁判所は付加金を命じることができません。正確に計算し、支払うべきものを早く支払うこと自体が防御になります。
内容証明が届いたこと自体は「負け」ではありません。しかし、放置と感情的な対応は、対処可能な事案を大きな事件に変えてしまいます。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2025-06-17)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。