外回り営業の「事業場外みなし労働」——スマホ時代にはほぼ成立しない(阪急トラベルサポート事件)
事業場外みなし労働時間制(労基法38条の2)を解説。「労働時間を算定し難いとき」の要件、行程表・報告義務・随時指示がある添乗員は該当しないとした阪急トラベルサポート事件(最二小判平26.1.24労判1088号5頁)、携帯・業務アプリ普及で適用範囲が極めて狭いこと、誤用時の残業代リスクまで。
「営業は一日中外にいて見えないから、みなし8時間にしよう」——その制度は確かに存在しますが、最高裁はすでに門を狭く閉じました。スマートフォン時代、「見えない」は「算定できない」を意味しません。
制度(労基法38条の2)
労働者が事業場外で業務に従事し、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなします(通常必要時間が所定を超える場合はその時間。労使協定で定めて届出)。要件の核心は「算定し難い」です。
阪急トラベルサポート事件のインパクト
海外ツアー添乗員の事案(最二小判平成26年1月24日労判1088号5頁)では、①会社が旅程表で業務内容を事前に具体的に指定②会社携帯の携行で随時指示・報告が可能③帰国後に添乗日報で詳細に報告——という事情から、労働時間を「算定し難い」とはいえないとされ、みなしの適用が否定されました。
この3要素(事前指定・随時連絡・事後報告)は、現代の外勤業務の標準装備そのものです。業務用スマホ+スケジュール共有+日報のある会社では、みなしはほぼ確実に否定されます。
まだ成立し得る場面(極めて狭い)
- 行動が完全に本人に委ねられ、行程管理も随時報告もない業務(現実には少ない)
- 注意:在宅勤務へのみなし適用も要件は厳格です(通信機器が常時接続でないこと等。テレワークガイドライン)——通常の在宅勤務は通常の時間管理で行います。
誤用の代償と代替策
- みなし否定→実労働時間での残業代(時効5年〔当分の間3年〕分の一括請求)。外勤の移動・待機時間の評価も争点になります。
- 代替設計:①業務アプリ・GPS打刻などの把握ツール導入+通常管理②直行直帰ルール+始業終業の報告③固定残業代の併用。
- 把握できた時間には誠実に支払う——「算定できるのにみなしを使う」のは、未払賃金問題と労基署の是正勧告の二重リスクです。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2025-12-16)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。