自社の従業員が加害者に——取引先・店舗へのカスハラと会社の対応・懲戒
自社従業員がカスハラ加害者になった場合を解説。業務中の加害行為への使用者責任(民法715条)と懲戒、私生活上の行為の懲戒の限界(企業秩序との関連・信用毀損の要素)、被害企業からの照会への対応手順(聴取→自社調査→謝罪・担当変更・懲戒検討)、対外接触部門の研修と優越的地位の濫用・中小受託取引適正化法(旧下請法)のリスクまで。
カスハラ対策は被害企業側から語られがちですが、加害者の多くはどこかの会社の従業員です。自社従業員が仕入先・外注先・店舗にカスハラをした場合の対応を整理します。
1 業務中の加害行為:会社が直接巻き込まれる
- 民事責任:業務遂行中(仕入先・外注窓口との折衝等)の暴言・過剰要求が不法行為(民法709条)となれば、会社は使用者責任(民法715条)を連帯して負い得る。BtoBのカスハラは「事業の執行につき」の典型場面。
- 懲戒:業務中の行為は企業秩序に直接関わり、就業規則の懲戒事由(対外的信用毀損・服務規律違反等)により懲戒可能。悪質・反復・警告歴があれば重い処分も維持され得る。
- 取引上の現実:相手方が改正労働施策総合推進法に基づく対策体制を整えれば、取引打切りや担当者の出入り禁止は現実の選択肢。加害従業員の放置は取引自体を失わせる。
2 私生活上の加害行為:懲戒には限界
勤務外に一般客として店舗で暴言・居座りをした場合は私生活上の行為であり、懲戒には企業秩序との関連(報道・制服・名刺等による会社の信用毀損の要素)が原則必要です。撮影・投稿で社名が特定された場合は関連を肯定しやすいものの、量定は業務中の行為より慎重に。就業規則に「取引先等へのハラスメント」「会社の信用を毀損する私生活上の行為」を懲戒事由として明記しておくことが前提です。
3 被害企業から照会・抗議が来たら
- 反射的にかばわない。相手方の事実主張(日時・場所・言動・証拠)をまず聴取。
- 自社調査:本人・同席者のヒアリング、メール・通話記録の回収。被害企業側の措置義務の体制整備により、加害側企業への協力要請は今後正式化していく。
- 事実が確認されたら謝罪・担当変更・再発防止策の提示、態様に応じて懲戒を検討。誠実な対応は取引関係のダメージコントロールでもある。
4 予防
購買・外注管理・営業など対外接触部門の研修に「自分たちも加害者になり得る」視点を入れる。仕入先への口調・深夜の督促・無理な納期要求は、相手方の記録ではカスハラの証拠です。優越的地位の濫用(独禁法)・中小受託取引適正化法(旧下請法)のリスクとも隣り合わせです。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-10-23)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。