この期間は絶対に解雇できない——労基法19条の解雇制限期間と3つの例外
労基法19条の解雇制限:業務上傷病の療養休業+30日間・産前産後休業+30日間は懲戒解雇も禁止。例外は①打切補償(平均賃金1200日分・労基法81条)②療養開始3年経過時の傷病補償年金受給によるみなし(労災保険法19条、専修大学事件・最二小判平成27年6月8日民集69巻4号1047頁)③天災事変。例外該当でも労契法16条の審査は残る。
解雇の実体的理由がどれほど十分でも、「解雇制限期間」を踏めばすべてが無に帰します。手続面で最も硬いレッドラインであり、「重大事案だから例外」という余地はありません(法定の例外を除く)。
2つの制限期間(労基法19条1項)
- 業務上傷病:業務上の負傷・疾病の療養のために休業する期間+その後30日間。「業務上」は労災保険の「業務上」と同義と解されており、労災認定を受けた社員は療養休業中、原則として手を出せません。
- 産前産後:産前6週間(多胎14週間)・産後8週間の休業期間(労基法65条)+その後30日間。
注意:禁止されるのは「解雇」です。懲戒解雇も同様に禁止されます。他方、合意退職・自然退職は禁止の対象外です(ただし傷病を背景とする退職勧奨は、実質解雇や違法勧奨と主張されやすく、格別の慎重さが必要です)。
3つの法定例外
- ①打切補償:療養開始後3年を経過しても治らない場合、平均賃金1200日分の打切補償を支払えば解雇できます(労基法19条1項但書・81条)。
- ②傷病補償年金によるみなし:療養開始3年経過時点で労災保険の傷病補償年金を受けているときは、打切補償を支払ったものとみなされます(労災保険法19条)。さらに、会社自身ではなく労災保険から療養補償給付を受けている社員にも打切補償の規定が適用されることが最高裁判例で確定しています(専修大学事件・最二小判平成27年6月8日民集69巻4号1047頁・労判1118号18頁)。
- ③天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となった場合(労働基準監督署長の認定が必要)。
ただし、例外に該当しても解雇が自動的に有効になるわけではありません。解雇権濫用法理(労働契約法16条)の審査は残ります。
私傷病の場合
業務外の傷病(私傷病)による休職は労基法19条の保護対象外で、理論上はいつでも解雇可能です。しかし実務では休職制度で処理し(休職期間満了でも復職不能→自然退職/解雇)、休職中の社員を直接解雇すれば労働契約法16条で厳格に審査されます。業務上か私傷病か(=労災該当性の有無)がこのように決定的な分岐点になるため、判断が微妙な場合は必ず専門家にご相談ください。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-08-31)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。