解雇無効なら「その間の賃金全額」——バックペイの怖さ
解雇が無効なら、解雇期間中の賃金を全額遡及払い(民法536条2項)。他社で得た中間収入は控除できるが、平均賃金の6割までは控除不可——あけぼのタクシー事件(最一小判昭62.4.2労働判例506号20頁)。
日本の解雇訴訟で会社に最も重いのは慰謝料ではなく、バックペイ(解雇期間中の賃金の遡及払い)です。解雇が無効とされれば、解雇日から判決確定までの間に「本来支払われたはずの賃金」を全額支払うことになります。
働いていない期間になぜ払うのか
解雇が無効なら労働契約は存続しています。従業員が働けなかったのは会社が労務の受領を拒んだ(違法解雇した)からであり、会社の帰責事由による履行不能として賃金請求権は失われません(民法536条2項)。訴訟は通常1〜2年。月給40万円なら500〜1,000万円に達し、社会保険や賞与も問題になります。
他社で稼いだ分は控除できるか——あけぼのタクシー事件
解雇期間中に従業員が他で得た収入(中間収入)は控除できますが、最高裁あけぼのタクシー事件(最一小判昭和62年4月2日労働判例506号20頁)は、平均賃金の6割に達するまでの部分は控除できないとしました(労基法26条の休業手当の保障趣旨)。控除できるのは6割を超える部分のみで、かつ時期的に対応する期間の中間収入に限られます。
会社側のリスク管理
- 解雇前に「敗訴時のバックペイ=月給×想定訴訟期間」を試算し、退職勧奨による解決と比較する。
- 従業員が就労の意思を表明している限りバックペイは積み上がる——訴訟の引き延ばしは会社に不利です。
- 和解の解決金相場はバックペイリスクを基準に形成されることが多く、早期和解の方が安く済むことがあります。
会社側の反論材料——就労の意思の切断
バックペイ請求の前提は労働者の就労の意思です。復職しない意思を明確にした場合や、他社に本就職して復職を放棄したと評価される場合は、その後の請求が切断されうる——これは会社側が訴訟・和解交渉で必ず検証すべき反論点です。相手方の転職活動や発言の記録が材料になります。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2025-09-13)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。