仕事のミスで会社に損害——全額弁償は不要(茨城石炭商事事件)
仕事のミスによる損害の賠償責任の制限を解説。茨城石炭商事事件(最一小判昭51.7.8民集30巻7号689頁)の4分の1限定、賠償予定の禁止(労基法16条)、給料からの一方的控除の禁止(24条)まで。
社用車で事故・機械を壊した・レジの違算——会社から「全額弁償、給料から引く」と言われても、まず何も署名しないでください。労働者の賠償責任は法律上大きく制限されています。
最高裁:求償は「公平な分担」の限度
茨城石炭商事事件(最一小判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁)は、タンクローリー運転手の追突事故につき、使用者は損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度でのみ賠償を請求できると判示し、考慮要素として事業の性格・規模・施設の状況、労働者の業務内容・労働条件・勤務態度、加害行為の態様、予防・損失分散(保険)の程度等を挙げました。結論は損害の4分の1に限定。
会社は労働者の労働で利益を得ている以上、事業活動に通常伴う損失リスクは会社が吸収すべき、という報償責任・危険責任の考え方です。
実務の相場
裁判例では、軽過失なら請求否定〜25%程度への限定が多く、故意・重過失(飲酒運転・著しい違反・横領)の場合に全額に近づきます。「全額弁償」の要求は多くの場面で過大です。
労基法の三つの防波堤
- 賠償予定の禁止(16条):「1台壊したら10万円」等の違約金・賠償額予定の条項は無効(119条・罰則あり)。実損害の賠償は別論です。
- 全額払原則(24条):賠償金の給料からの一方的控除は不可。労働者の同意による相殺は自由な意思に基づく場合に限られます(日新製鋼事件・最二小判平成2年11月26日民集44巻8号1085頁)。
- 身元保証の制限:身元保証人の責任も身元保証法で制限され、2020年4月以降の契約は極度額の定めのない個人根保証が無効です(民法465条の2)。
請求されたときの対応
- その場で「念書」「弁償同意書」に署名しない。
- 保険(車両保険・動産保険)の有無を確認——保険を使わず労働者にだけ求償する態度は、求償を認めにくくする事情です。
- 金額が大きければ弁護士に相談。「4分の1基準」は訴訟で強力な反論になります。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2025-12-22)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。