「壊した機械の代金は給料から天引き」は違法——賃金全額払いと相殺禁止
2025-08-01
5秒でわかる結論
賃金からの一方的な天引き・相殺は労基法24条違反。従業員の同意がある相殺・賃金債権の放棄も「自由意思の客観的合理性」が必要——日新製鋼事件(最二小判平2.11.26民集44巻8号1085頁)・シンガー事件(最二小判昭48.1.19民集27巻1号27頁)。
「設備を壊したから修理代を今月の給料から引く」「制服代・研修費を賃金から控除する」——日本ではほぼ違法です。労基法24条の全額払原則は、日本の賃金規制で最も厳格なルールの一つです。
全額払原則と例外
賃金は全額を支払わなければなりません。例外は①法令の定め(所得税・社会保険料の控除)②労使協定(過半数代表との書面協定)で定めた項目(社宅費・財形等)の二つだけ。協定なしの食費・制服代の控除は24条違反です(30万円以下の罰金・労基法120条)。
会社からの一方的相殺は禁止
会社が従業員に損害賠償債権(設備破損・貸付金)を持っていても、賃金との一方的相殺は24条が禁止する——確立した判例法理です。賠償は別途請求・協議すべきもので、「給料から引く」ことはできません。
合意相殺・債権放棄——「自由意思」の厳格審査
- 日新製鋼事件(最二小判平成2年11月26日民集44巻8号1085頁):労働者が同意した相殺は、「労働者の自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」場合に有効。同事件は本人が住宅ローン清算を自ら申し出た事案でした。
- シンガー・ソーイング・メシーン事件(最二小判昭和48年1月19日民集27巻1号27頁):退職時の賃金債権放棄の書面にも、同様に自由意思の客観的合理性が要求されます。
署名があるだけでは足りません。締結の経緯・説明内容・労働者の得た利益を見て、裁判所は厳しく審査します。
実務の正しい進め方
- 損害賠償:賃金は全額払い、賠償は別途の書面合意・分割協議で(賠償額自体も労働者への求償制限の法理で制限されます)。
- 恒常的な控除項目(社宅・食費等)は24条協定を締結する。
- 過払賃金の精算(調整的相殺)は、時期の近接・少額の範囲でのみ判例上許容されています。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2025-08-01)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。