【最新判例】初めての就業規則で定年制を導入——67歳社員「4か月後に定年」は無効(スコットプランニング事件)
スコットプランニング事件(東京地判令和8年1月28日労経速2620号3頁)の判例紹介。就業規則の新設による定年制導入に労契法10条を類推適用し、施行時67歳・65歳の兄弟従業員を短期間で退職させる定年制を無効と判断。過半数代表者選出の瑕疵、意見提出期間約1週間、退職させる意図の推認、口頭の減給合意の否定(具体的資料の不提示)まで。経営者への教訓付き。
従業員が10人になり初めて就業規則を作る際、定年制と給与規程をまとめて導入する——中小企業によくある場面の落とし穴を示す判決です。スコットプランニング事件(東京地判令和8年1月28日労経速2620号3頁)。
事案の概要
被告は従業員10名程度の真空ポンプ販売・修理会社で、従前就業規則がなかった。平成30年3月、新設の就業規則・給与規程案を各従業員に示し約10日後に施行。定年65歳(施行時に65歳超の者は68歳)、定年後は最長70歳まで1年ごとの嘱託再雇用の余地ありという内容。施行時に原告兄は67歳、弟は65歳で、兄は施行4か月後、弟は2年7か月後に定年退職扱いとされた。兄弟は地位確認と、平成22年以降の複数回の給与減額(兄74万円→65万円等、弟55万円→45万円等)の無効・差額を請求した。
争点と双方の主張
- 新設就業規則による定年制導入の効力:会社は制度内容の合理性を主張、従業員側は労契法10条の合理性欠如を主張。
- 減給合意の成否:会社は「説明に異議がなかった=口頭合意」、従業員側は不同意を主張。
裁判所の判断
- 定年制の新設は労働者の意思によらない退職事由の追加=不利益変更であり、就業規則の新設にも労契法10条が類推適用される。
- 定年制自体は不合理でないが、本件では施行後わずか4か月/2年7か月で定年となる不利益の大きさ、過半数代表者の選出への代表者の関与(候補者指名)、意見提出まで約1週間という短さ、原告兄を退職させる意図の推認を総合し、合理性を欠き定年制は契約内容とならず退職扱いは無効。
- 減給は、不利益の内容程度・経緯態様・情報提供や説明の内容に照らし「自由な意思に基づく」と認める合理的理由が客観的に存在するかで判断する枠組みを適用。受注減少や財務状況の具体的資料の提示がなく、異議を述べなかっただけでは同意と認められないとして全ての減額合意を否定。兄に月74万円、弟に月55万円の支払(判決確定日まで。一部は消滅時効)を命じた。
経営者への教訓
- 初めての就業規則でも、既存従業員への不利益部分は合理性審査を受ける。定年間近の在職者には十分な経過措置を。
- 過半数代表者の選出に会社が関与すれば手続の瑕疵として効力に直結する。意見聴取期間も数日では短い。
- 減給は書面合意+具体的経営資料の説明が必須。「反対しなかった」は日本の裁判所ではほぼ無価値で、十数年後に差額を追及され得る。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-08-17)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。