【裁判例紹介】PIPを3回やっても解雇無効——外資系通信社の能力不足解雇・ブルームバーグ事件(東京高判平成25年4月24日労判1074号75頁)
2026-05-17
5秒でわかる結論
PIPを3回実施しても能力不足解雇は無効。ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京高判平成25年4月24日労判1074号75頁)が示した4段階の判断枠組みと「外資基準」が排斥された理由。
外資系企業でよくある流れ——低評価→PIP(業務改善プラン)→未達→解雇。これが日本では通用しないことを示す代表例が、ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京高判平成25年4月24日労判1074号75頁。控訴棄却・確定)です。
事案の概要
Xは他社で約13年記者を務めた後、米国系通信社Yに記者として中途採用されました。数年後Yは「期待に満たない」と評価し、PIPを3回実施。第1回PIPの目標をすべて達成しなかった等として警告の上、退職勧奨と自宅待機を経て、就業規則の「職責を果たす能力もしくは能率が著しく低下しており改善の見込みがない」等の事由で解雇しました。一審(東京地判平成24年10月5日労判1067号76頁)はX勝訴、Yが控訴しました。
東京高裁の判断
- 判断枠組み:職務能力の低下を理由とする解雇の「客観的に合理的な理由」(労契法16条)は、①当該労働契約上求められている職務能力の内容→②低下が契約の継続を期待できないほど重大か→③改善矯正を促し努力反省の機会を与えたか→④今後の指導による改善可能性、の総合考慮で判断する。
- 「外資基準」の排斥:Yは国際企業と日本型雇用の違い(雇用文化の多様性)を主張したが、採用選考や試用期間で特別の基準・審査を設けていなかった以上、Xに求められるのは社会通念上、中途採用の記者職種限定従業員に一般的に求められる職務能力であり、それを量的・質的に超えるものではないとされた。
- 当事者の行動:Xは第2・3回PIPで目標数を達成又はそれに近い数値に及び改善を指向する態度を示した一方、Yは具体的な指示や問題意識の共有など具体的な改善矯正策を講じていない。解雇無効。
経営者への教訓
- 中途採用者を「高い水準」で解雇したいなら、契約上高い水準を明確に合意しておくこと(職務記述書・採用時の特別な条件設定・相応の高報酬)。何も定めなければ「一般水準」で審査される。
- PIPは解雇の免罪符ではない。目標の合理性・過程での具体的指導・公平な評価がなければ、むしろ解雇無効の証拠になる。
- 退職勧奨の先行自体は適切だが、勧奨不調なら解雇という「既定路線」は訴訟で不利な事情になる。
- 下位考課者への同種の枠組みはセガ・エンタープライゼス事件(東京地決平成11年10月15日労判770号34頁・当サイト別記事)参照。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-05-17)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。