社員が見ていない就業規則では懲戒できない——最高裁判決
会社が就業規則に基づき問題社員を懲戒解雇。社員は「その規則は見たことがない」。最高裁は社員の側に立ちました。キーワードは「周知」です。
取引先とトラブルを起こし、上司への態度も悪い——そんな社員を、会社が就業規則に基づいて懲戒解雇しました。社員の言い分は「その就業規則は見たことがない」。最高裁は、社員の側に立ちました。
日本の会社には「就業規則」という社内の法律があり、懲戒や解雇はこれを根拠に行います。常時10人以上を使用する事業場には、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法89条)。
この事件の会社は就業規則を作成し、届出も済ませており、形式は整っていました。しかし、社員が働く事業場には就業規則が備え付けられておらず、見ようと思っても見られない状態でした。最高裁の判断は、①懲戒には、あらかじめ就業規則に懲戒の種別・事由を定めておくことが必要、②就業規則が拘束力を持つには、労働者が「いつでも内容を知り得る状態」に置く手続(周知)が必要——というもの。会社を支持した原判決は破棄・差戻しとなりました(フジ興産事件・最二小判平成15年10月10日労判861号5頁)。
経営者への実務対応
「届出」と「周知」は別物です。法律上の周知方法は3つ(労基法106条・労基則52条の2):①各作業場の見やすい場所への常時掲示・備付け、②書面の交付、③社内イントラ等での常時閲覧。実務では次の点に注意してください。
- 拠点(支店・店舗・工場)ごとに閲覧できる状態にする。本社に置いてあるだけでは不十分——まさに本判決の教訓です。
- 入社時に保管場所と閲覧方法を案内し、確認書に署名をもらって記録化する。
- イントラ掲載なら、全員にアカウントと閲覧権限があるかを確認。PCを使わない従業員には紙で備え付ける。
- 変更のたびに「意見聴取→届出→周知」をやり直す。旧版の周知では新版は有効になりません。
- 懲戒するには、就業規則に懲戒の種類・事由の定めがあることが大前提。定めのない処分は無効です。
10人未満の会社に作成義務はありませんが、就業規則なしに懲戒はできません。作成と周知をおすすめします。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2025-07-21)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。